「唾液の大切さ」を考えた1日

  新型インフルエンザが流行はじめて数ヶ月が経ちました。この間、世界中で多くの感染者が発生し、悲しいことに死者の数も増加の一途をたどっています。私の大学でも学生の新型インフルエンザ対策に追われました。この時期、入学試験が実施されるため、あるいは病院実習に出かけるため、人が集まる場所で感染者が出た場合、その感染拡大をいかに防ぐかの対策がきわめて重要になるからです。

  さて、有り難いことに、僕にはいつも、感染症を引き起こすウイルスや細菌などの病原体を攻撃する免疫システムをいかに健全に保ったらよいかを考える習慣ができています。この観点でみると、口や鼻から侵入する微生物を撃退する上で、唾液などの分泌物がとても重要になります。昔から「食べ物はよくかんで食べなさい」と両親から言われたものです。かむ意味にはいろいろあると思いますが、口に入れた食べ物を歯で細かくするばかりでなく、かむと出てくる唾液を食べ物と混ぜるという働きもあります。この後者の働きこそ、身体の入り口で異物侵入を阻止する上で大切なのです。唾液は、下あごや舌下などにある3つの大唾液腺から分泌され、普通は意識に関係なく流れ出ているので、口内はいつも潤っています。一般的に、健康な大人では、1日に1-1.8リットルも分泌されると言われています。そして、食べ物をかむときは、普段の3倍以上も分泌されてくるのです。

 

  僕が唾液の大切さを考えるようになったのは、今から18年ほど前に、音楽療法の研究を始めた頃からでした。その理由は、当時、自分の免疫因子が自己成分に向かうような自己免疫疾患の中で、唾液腺に対する自己抗体によって唾液腺の機能が障害を被り、唾液が出てこない患者さんがいることを知ったからです。この病気はシェーグレン症候群と呼ばれていますが、このような病気が音楽の刺激によって唾液腺が刺激され、唾液の分泌が回復して改善しないものかな、と真剣に考えていたのです。

 

  興味深いことに、唾液には、1)食べ物をなめらかにして飲みこみやすくすること、2)ごはんのようなでんぷんを麦芽糖に分解するαアミラーゼが含まれること、3)唾液が出ることで、胃腸からの消化液の分泌が促進すること、4)酸性になりやすい口内を中性に戻して、虫歯になりにくい環境にしてくれること、などの素晴らしいパワーがあるばかりでなく、病原体を撃退するリゾチームや抗体IgAという免疫物質が含まれ、感染症から身を守ってくれています。加えて、発ガン物質の働きを抑制するラクトペルオキシダーゼという酵素も存在しています。

 

  こうした見地で、今日の食生活や生活習慣を考えると、その大切な唾液が出にくい状況がたくさんあることに気がつきます。とくに、柔らかくてかみごたえのない食べ物を多く摂取するような食生活を送るひとが増えていることや、身体を活発にさせる交感神経を過剰に働かせてしまう生活習慣の増大が、唾液や消化液の分泌を抑えているように思えます。その結果として、口が乾燥するようなドライマウスの方や消化液の出にくい便秘症の方が増えているのも事実なのです。

 

  インフルエンザを予防する上で、手洗いやうがいの励行やマスクの着用はもちろん大切ですが、僕はそれ以上に、インフルエンザウイルスを攻撃するIgAという抗体を含む唾液の分泌をより高めることの方がより重要であると確信しています。昔の人は、子ども達に、「けがしたらツバでもつけておきなさい」と言っていたことを覚えています。このことは、「唾液に病原体を攻撃する作用がある」ということを子ども達に心で教えてくれた生活の知恵であったと思いました。

 

  今日は唾液が正常に分泌される生活を維持することが免疫学的に健康を維持する上でとても大切であることを考える1日でした。

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